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デジタル社会の怖い点

私はドイツに来てから、今年で27年目になる。1990年には、デジタル化によってこれほど世の中が変わるとは想像すらできなかった。10万字の原稿やイラストもマウスをクリックするだけで、東京の編集部に到着する。(1990年にはワープロで印字した原稿や原画を、郵便で東京へ送っていた)航空券やホテルの部屋、列車の切符、ルーブル美術館の入場券、映画館の切符、レストランのテーブルも自宅のPCやスマートホンで予約することができる。カーナビに目的地の住所を入力すれば、機械がミュンヘンからイタリアまでの道を教えてくれる。(1990年代には、紙の地図と首ったけで、片言のイタリア語で人に道を聞きながら、目的地へたどり着いた)

その反面、これだけPCやスマホに依存すると、インターネットのシステムがダウンしたり停電したりした時の反動が恐ろしい。ふだん何気なく吸っている酸素が、突然遮断されるようなものだ。このため、私は万一の事態に備えて、ファクス機と固定電話を廃止していない。

もう一つ気になるのは、デジタル化による社会の分断(デジタル・デバイド)である。フェースブックなどのソーシャル・ネットワークに参加している人とは、1万キロ離れていても毎日話し合えるが、メールをやらない人とはなかなか連絡がつかない。(このため私は、メールを使わない方と音信不通になることを防ぐために、毎年400通近い年賀状を送っている。)

去年12月にミュンヘン工科大学で行われたデジタル化についてのシンポジウムでも、「デジタル化から取り残される市民に、どのように手を差し伸べるか。デジタル化による社会の分断をどのように防ぐか」が重要なテーマの一つになっていた。

職業においても、デジタル化は断絶を深める危険がある。マサチューセッツ工科大学のエリック・ブリニョルフィソン教授らは、著書「セカンド・マシン・エイジ」の中で、デジタル化はIT企業の創業者らの富を増幅する一方で、一部の企業を倒産させると予測。つまり「勝者が全てを得る(ウインナー・テークス・オール)」傾向が強まり、所得格差が今よりも拡大すると主張している。グローバル化が米国や英国でポピュリスト勢力への支持を高めたとされているが、デジタル化も「負け組」を増やしてポピュリズムを拡大するかもしれない。

デジタル化の便利さ・快適さの裏に潜む危険にも、十分注意を払う必要がある。

(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)ホームページ http://www.tkumagai.de