◆ なぜ財務省は森友学園に通常あり得ない厚遇をしたのか

◆ なぜ財務省森友学園に通常あり得ない厚遇をしたのか

【ダイヤモンドオンライン】 03/17

山田厚史:デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員

 「虚偽答弁」で防衛相は辞任の瀬戸際。

広告塔を務めた首相夫人は深手を負った。

二人とも籠池泰典森友学園理事長との交友がアダとなった。

安倍晋三首相に馴染み深い「右派人脈」が、盤石と見られた長期政権を揺さぶっている。

そしてもう一つ、森友学園によって自滅する権威がある。

財務省

そもそも事件の発端は、国有財産だった。

 世間の怒りに火をつけた「タダ同然の払い下げ」を決めたのは財務官僚である。

過去にも例がない奇妙な取引が実現した謎は、まだ解けていない。

背後に垣間見えるのが消費増税を巡る官邸・自民党との関係だ。

● タダ同然の払い下げ実現に財務省で働いた「特別の力学」

 9億5600万円と不動産鑑定士が評価した土地を、埋まっているゴミの処理費用と称して8億2200万円値引きして1憶3400万円で払い下げた。

 既に払ったゴミ処理代1億3200万円を差し引くと、森友学園は200万円で大阪の豊中市に8770?の土地を取得した。

さらに学園には国土交通省から補助金として6000万円が出た。

木造体育館への助成だという。

破格の優遇である。

普通の学校関係者は、こんなにちやほやしてもらえない。

 「特別の力学が働いたと思わざるを得ない」

 作新学園理事長でもある船田元衆議院議員はブログにそう書いた。

国有地の払い下げを受け新設校を開校した自らの経験と比べ、森友学園の場合は、迅速に格安な払い下げが決まった。

安倍総理大臣や昭恵夫人との関連は、自ら明らかにされること」とやんわり首相の説明不足を突いている。

 安倍首相も稲田防衛相も「土地売買には一切関与していない」と繰り返している。

 関与とはどういうことを指すのか。

財務省に電話して「籠池理事長の話を聞いてやってくれ」とでも言うことなのか。

それとも「国有地を安く払い下げてやれ」と具体的に指示することか。

それほど品格を欠く介入を総理大臣が直接やるとは思えない。

 財務省の役人に聞くと、首相官邸からの「要請」は珍しくない、という。

高官から直接に連絡があったり、出向している財務省出身者を介しての紹介や問い合わせが来るという。

 国会議員は日常活動の一環として役所への「口利き」をしている。

有権者の事情を直接行政に取り次ぐのは政治家の仕事の一部とされてきた。

 「役人に、大きな声で要求をするのは、まだ力のない若手のやりかた」ともいわれている。

ベテランになれば、「よろしく」「頼むよ」という穏やかな言葉に、断り切れない威圧を込める。

さらに上を行くと、言葉はいらない。

サインを読み取れない官僚は「×」である。

 財務省には天下の秀才が集まっている。

仕事を早く、正確にこなす能力では優劣つけにくい。

問われるのはセンスだ。

 「ヤレと指示されて、できなければバツ。 そんな役人はウチにはいない」。

バブルの頃よく聞かされた言葉だ。

 「指示された仕事ができたからといって『○』にはならない。 場合によっては、状況を読み、いま必要なことを判断して成果を示せるのが、できる役人」というのだ。

 銀行など民間ではこう言われてきた。

「調査役は課長になったつもりで。 課長は部長の立場で考え、部長は役員の眼で…」

 指示待ちはダメ、自分から案件を探し、リスクを取って成果を上げてこそ出世の道が開ける、という木下藤吉郎なみの「気働き」が説かれてきた。

 過労死が問題になる民間では、もうそんな元気はなくなっているかもしれない。

 しかし、政府中枢で局長・次官を目指すなら「気働き」「先読み」のセンスは必須だ。

財務省は政治家らに「番記者」ならぬ「番官僚」をつける

 「財務省には『番官僚』がいますよ」

教えてくれたのは閣僚経験のある学者だ。

六本木の事務所で会った時、傍らに財務官僚がいた。

その人が帰った後、「彼は私を担当する連絡係です。 政治家でもない私にまで担当者をつけ、情報を届けてくれる。 さすが財務省です」。

 構造改革の旗を振るこの学者は、財務省には目障りな存在だが、「御用聞き」を張り付けて、動きをマークする。

有力な政治家には『番』を貼り付け、関係を保ちつつ、取り込んでゆくというのが財務省の戦略だ。

釣り針につけるエサは役所が握る権限や情報だ。

 「番官僚」には、担当の政治家が何を欲しがっているのかを嗅ぎつける嗅覚が求められる。

情報、許認可、国有財産。

裁量が及ぶ範囲で対応すれば「違法」にはならない。

常日頃から「便宜供与」を続けることで、いざ国会対策という時に、財務省ネットワークが生きる。

 閣僚経験に乏しい安倍首相には、財務省との接点が希薄だ。

父親の安倍慎太郎氏は外相・通産相が長く、秘書だった晋三氏は経産・外務の若手と交わり、当時の人脈が今も生きている。

財務省にはそうしたつながりがない。

パイプがないことで、政策的にも疎遠になりがちだ。

 そうした中で、第一次安倍内閣の時、首相秘書官として仕えた田中一穂氏は、貴重なパイプ役だった。

 第二次安倍内閣が発足した時、田中氏は理財局長で、事務次官は同期の木下康弘。

安倍首相の政権復帰で、田中氏は2014年7月、主計局長になる。

 この時、次官になったのはやはり同期の香川俊介氏。

予算配分を仕切る重要なポストに首相と親しい局長を充てることで、官邸との円滑な関係を保とうとした。

 翌年7月、「安倍番」の田中氏が次官に昇格する。

 異例の人事だった。

79年入省の同期三人、木下、香川、田中が、たらい回しで次官になる。

それほど、安倍官邸との接点を財務省は大事にした。

● 田中・迫田コンビの時代と消費増税森友学園の符合

 田中一穂氏が主計局長・事務次官を務めた2014年7月から2016年7月までの2年間は、消費税増税を先送りしようとする安倍首相を、財務省が必死で引き留めようとする、壮絶なバトルが展開された時期だ。

そしてこの時期に、大阪で森友学園が急展開する。

 首相夫人の昭恵さんが森友学園の幼稚園で「ファーストレディーとして」と題する講演をしたのが2014年4月。

前年に籠池泰典理事長が用地取得に名乗りを上げた。

 14年は、小学校の設立認可、国有地の払い下げへ準備作業が進んでいた。

 資金が潤沢ではない森友学園が認可を取り、国有地を取得することは極めて難しい。

府の私学審議会や国有財産地方協議会では「財務基盤の弱さ」が指摘された。

門前払いもおかしくない案件が、スンナリ通り、短期間に決まった背景には、船田議員が指摘するように「大きな力」が働いた、と見るのが普通の感覚だ。

 この時期、財務省は防戦に必死だった。

2014年4月、消費税が8%に引き上げられた。

景気にブレーキが掛かる。

官邸では首相が「財務省に騙された」と周辺に語る険悪な空気が広がった。

2015年10月に予定される「10%引き上げ」に否定的な意見が持ち上がり、財務省は首相をなだめようと必死になった。

 森友学園が計画する新設小学校は「安倍晋三記念小学校」の名で寄付を募った。

名誉校長に安倍昭恵さんが就任、講演には政府職員が同行し、教育方針を称賛する。

どこから見ても「首相肝煎り」の小学校である。

こうしたサインを財務省が見過ごすことはない。

 「主計局長になった田中さんの一番の仕事は、首相を怒らせない、機嫌をとることでした」と財務官僚は言う。

 首相は11月、「消費増税を1年半延期」を打ち出し、総選挙の焦点にした。

憲法改正を争点から隠した」と言われた総選挙で、与党は安定多数を確保、「増税先送り」の味を占める。

 安倍首相に近いとされる人物がもう一人いる。

首相の地元である山口県下関市出身の迫田英典・国税庁長官だ。

伊藤博文以来、数多くの首相を輩出してきた旧長州藩の分厚い保守人脈は、官界人事にも影響力がある、とされている。

 迫田氏は「山口人脈」で首相と知り合い、「安倍番」に加えられた。

 田中主計局長が次官に就任した時、迫田氏は理財局長に抜擢、田中・迫田コンビで「安倍対策」を担うかたちになった。

理財局長は、国有財産の管理の元締めである。

 迫田局長の下で、「8億円の値引き」が決まり、「タダ同然の払い下げ」が進んだ。

● “虚偽答弁”稲田防衛相にも財務官僚が「家庭教師役」

 森友騒動にはもう一人大事な脇役がいる。

稲田朋美防衛大臣

答弁が一日でひっくり返るなど「虚偽答弁」が国会で問題になっているが、財務省にとって、「重要な工作対象」になっている、という。

2014年9月に自民党政務調査会長になったことで「番官僚」が張りついている。

自民党政調は党の政策を決める機関だが、経済政策に疎い。

情報不足を補うのが財務官僚で、「家庭教師役」を務め稲田氏を取り込んだ。

 政調会長時代の稲田氏に「財政再建」を重視する発言が目立ったのは、その成果だ。

安倍後を見据えた財務省の布石でもある。

 森友学園の籠池理事長が自民党会館で握手した、というのは政調会長をしていた時期である。

 「政治家の関与」は、財務省が記録している「対応記録」を見れば分かることだ。

しかし「処分された」(佐川宣寿理財局長)という。

文書管理規定が定める保管期限を超えたから、と説明する。

これが建前の話であることは多くの官僚が証言している。

前回書いたが、政策立案過程を記録した文書は、情報公開を避けるため保存文書から外し、個人の「私的メモ」として残している、という。

これは役人の常識という。

 財務省は、交渉経過を隠しているのだ。

都合の悪いことが書かれているからだろう。

  国会では佐川理財局長の鉄面皮な答弁が続いている。

8億円の値引きは「法に従い、適切に処理しております」。

ゴミ処理を確認したか、と問われても「契約上(状況を把握する)義務はなく、詳細は承知していない」。

 注意深い役人が、法律に触れることをするとは思えない。

世間が怒っているのは、普通はありえない厚遇を財務省が行ったのではないか、ということだ。

法律問題ではない。

なぜ財務省はこれほど森友学園の側に立って行政をしたのか、ということだ。

 疑念を晴らさない限り、財務省は信用ならない、という世論が沸騰するだろう。

 法律に違反していないから問題ない、という強弁を続ける限り、財政再建増税の訴えは、空しく響くばかりだ。

 財務省は、誰を味方と考えているのか。

      ◇◇◇

山田厚史 やまだ・あつし

デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員

1971年朝日新聞入社。

青森・千葉支局員を経て経済記者。

大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。

ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員

ハーバード大学ニーマンフェロー。

朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。

2000年からバンコク特派員。

2012年からフリージャーナリスト。

CS放送朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなどを務める。

山田厚史の「世界かわら版」

元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。

その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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